お手本の使い方|運動と理論

お手本の使い方は難しいです。

「まずはお手本そっくりに書く」という方が多いと思いますが、ただお手本をコピーし続ければ勝手に上達するということはありません。
何も考えず「ただやるだけ」では、模写が上達するだけで、手本がないと書けない「お手本依存症」となるだけです。

書写に関わらず、何事も「模写する」「真似する」という学習方法が大切であることは大前提とします。

「体で覚える=感覚・運動」は、墨液のつけ方・墨液の落とし方・力の入れ方・力の抜き方・真っすぐ書くなどの技術・リズム・呼吸など実際に自分の体を使うこと。
正しく整った字形を書くためには「理論=頭を使う」。

私が指導する際は、実際に書いた文字について「何か変」「上手に書けない」と感じた時に「ではお手本はどうなっているのか?」「なぜ、どこが変なのか?」「どのくらいの長さなのか?」「角度なのか?」「大きさなのか?」を確認するために「お手本を見てみて」と言います。

何も言わなくてもお手本をしっかり見て書いてくる生徒さんも居ますし、全くお手本を見ないで書いてくる生徒さんも居ます。
ですが、「お手本を全然見ていないじゃないの」とか「お手本と全然違うじゃないの」などとは言いません。お手本をどう使うのか。
お手本を見ているか見ていないかについて特別に注意することはしません。

偏(へん)と旁(つくり)で構成されている漢字を書く時、旁が小さくなってしまったり、偏と旁がぶつかってしまったりしたとします。
そういったときに、「なぜだと思う?ちょっとお手本見てみて。偏の右端を揃えることで旁の場所を開けているんだよ。字形にはそういう法則があるんだよ。」とか「この字の偏と旁は1:2なんだよ。字によってブロック構成があるんだね。パズルみたいだよね」といった感じでお手本が登場します。

キレイな字というのは、とても沢山の技が隠されています。
つかり、お手本はとても情報量が多いのです。
それをパッと渡され、何の知識もない状態で書きなさいと言われても一体どこを見て何に注意して書けばいいのかわからず、また全てを一気に再現するのも難しく、とにかく同じように真似しよう→上手く書けない、となるのではないかと思うんです。

「どこが変なのか自分で考えなさい」と投げる事もしません。
学生の頃、勉強方法で「問題を解いてみてわからなければすぐ解答と解説を見なさい」と教えてくれた先生がいました。
解説を見て理解できれば良し、わからなければ聞く、そして後日改めて自力で解ければ理解できているということ。わからないのにずっと考えているのは不要な時間、繰り返すことで知識と経験の量が蓄積されて解ける問題も増えていく、と。

内容は個々によって全く違います。
自分でお手本から法則を見つけ出す自学能力の高い生徒さんも居ますし、伝えることで理解する生徒さんも居ます。
いずれにせよ、ただお手本をコピーさせるという指導は行わないように意識しています。
お手本を見てひたすら書くという学習方法も否定しませんが、習得までとても時間がかかります。
一度では忘れてしまうことも、色々な字を書き、パターンや共通点を実感することによって初めて書く文字でも自力で整った字を書けるようになって欲しいです。

漢字は2000以上あります。
理論がわからないままでいると、「お手本があれば書けるんだけど」という模写能力ばかりが身に付いた状態になり、自分の力ではなかなか整った字を書けないという状態になり易いと思います。

始めに書いた「感覚・運動」の部分については、言葉で説明する内容を基に自分の感覚に取り込んでもらわないといけない部分なので、やはり練習と時間がかかりますよね。