書を通じて身につけて欲しい力

正しく整った字を書く力

理論・運動・道徳の三つの柱を基盤に、字の形や構成、配置を理解しながら、自分らしい整った字を目指す学びを行います。

毛筆では、トメ・ハネ・ハライなど一画一画を丁寧に練習し、基礎の感覚を養います。

また、単にお手本を模写するだけでなく、個々の筆跡の特徴やクセに向き合いながら改善を重ねることで、読み手に心地よく伝わる美しい字へと取り組みを深めていきます。

自分の心をコントロールする力

書は人と競うものではありません。「失敗した」「思うように書けない」といった自分の心と向き合い、感情に流されず落ち着いて取り組む――これが書の「修行」です。文字を書く中で、止まりたいけれど止まる、もっと長く引きたいけれど我慢する、といった自己抑制や意志の力も養われます。

毛筆では「ゆっくり丁寧に書く」と言いますが、これはただ同じ速度で書くという意味ではありません。横画なら「トン・スー・トン」、右払いなら「トン・スー・グッ・スー」と、リズムや強弱をつけることで文字に命が宿り、その人らしさが表れます。

文字を書くリズムや呼吸を身につけることで、日常生活でも落ち着いた行動や気持ちのリズムを自然に養うことにつながります。

道徳心

「字は体を表す」「書は心画なり」「書は人なり」という言葉が示すように、古くから禅の教えでは、書はその人の性格や本質を映すものと考えられてきました。

確かに全く同じ筆跡を持つ人はいません。書は、日本人の気質や心を大切にしてきた文化でもあります。

書写は単に読み書きを習うだけでなく、起筆・運筆・収筆の一つ一つや、トメ・ハネ・ハライ、折れ・閉じ・開けるといった動作を繰り返し練習することで、まじめで規律正しい心を育む伝統的な教育でもあります。

また、文字の構成や配置を考える過程では、周囲とのバランスを意識することが、人や社会の中でのあるべき姿を考える力につながります。

算数力と芸術力

文字の多くは、物の形をかたどって作られたもので、絵と通じる要素もあります。

また、書には図形的要素も多く含まれ、四角形・円・三角形といった形や、平行・均等・対称・空間の感覚など、理系的な要素も学ぶことができます。

日常生活では一文字だけを書くことは少なく、他の文字との調和やバランスを考えることも重要です。

意外に思われるかもしれませんが、書を通じて理系的な思考力や芸術的感覚を自然に身につけることができます。

考える力

お稽古では、お手本を見ながら書き、その後で「お手本と何が違うのか」「文字全体のバランスはどうか」「線質は太いか細いか」「文字間はどうか」など、一緒に観察して分析します。そして、先生と話したことを意識しながら再度書き直します。

書写は「計画 → 実行 → 見直し・分析 → 修正 → 実行」という工程を繰り返します。理想の形に仕上げられなかったときも、その前の線や段階に戻って対策を考え、改善していく――こうした逆説的な思考や振り返りのプロセスは、書写以外の学習や日常生活、仕事の取り組みなどにも生かすことができます。

漢字は常用漢字だけでも2000以上あり、一つ一つ覚えるのは大変です。しかし文字にはルールがあるため、学んだことを他の字に応用し、目的に沿った形を作り上げる――これが書写を通じて育つ考える力です。

自己肯定感

字がキレイであることに否定的な言葉をかける人はいません。書道は、自分の文字を安心して表現できる場です。

文字を書くことは身近な自己表現の一つで、初めて取り組む時でも「全然できない」という感覚を持たず、リラックスして始められます。

課題に取り組み、「ここを直そう」と意識しながら練習する中で、以前より変化・成長した自分の字を見たり、褒められたりすることで、自信や達成感を感じられます。

さらに、段級を取得したり、賞をもらうことで、自分の文字(=自分)が第三者の目に触れ、評価されていることを実感できます。

特技を持つことや周囲からの肯定的な評価は、自信となり、自己肯定感を自然に高めます。

向き合う力(集中・粘り強さ)

毛筆は、途中で失敗しても簡単に書き直すことができません。
そのため、一字一画に意識を向け、最後まで集中して書く必要があります。画数が増え、文字が複雑になるほど、より強い集中と気持ちの持続が求められます。

幼年・一年生は画数の少ないひらがなから始め、少しずつ画数や文字数を増やしていきます。段階を踏みながら取り組むことで、無理なく「向き合う力」を積み重ねていきます。

当教室では、半紙の枚数もあえて制限しています。
「間違えたら書き直せばいい」という考えではなく、限られた中で一枚一枚を大切にするためです。三枚ずつ区切って取り組むことで、短時間でも集中を切らさず、最後までやり切る力を育てています。

思うようにいかなくても、投げ出さずに原因を考え、次の一枚に活かす。
書を通じて身につくこの姿勢は、勉強や仕事など、あらゆる場面で生きる「続ける力」「あきらめない心」につながっていきます。

脳を使い、休ませる

毛筆では、一画一画すべてに意識を向けて書き進めます。書き直しができないため、自然と気持ちは「今、この一画」に向かい、目の前の動きに集中する時間が生まれます。

このように「今だけ」に意識を向けることは、頭の中にある雑念やストレスと距離を置くことにつながり、結果として脳を休ませる時間にもなります。

また、定期的に集中する習慣を重ねることで、脳は「集中する状態」を覚えていきます。その感覚は、勉強や仕事など他の場面でも、落ち着いて物事に取り組む力として生かされていきます。

お手本を見て模写する練習では、余計なことを考えず、無心で手を動かす時間が生まれます。一方で、文字の形や構成、理由を考えながら書く練習は、脳をしっかり使い、活性化させる時間になります。

書の学びには、脳を「使う時間」と「休ませる時間」の両方があり、その切り替えが自然に行われることも大きな特徴です。

教室の雰囲気やお稽古を体験してみませんか?

体験レッスンは個別に行っております。

お一人様1回1時間程度、ご兄弟姉妹・お友達同士はご一緒に参加して頂けます。

保護者の方もご一緒に参加して頂けます。

鈴木祥水 書の教室