理論|書写と算数的思考

人それぞれ、十人十色。
人はみな、感じ方が違います。

嬉しい、楽しい、悲しい、怒り、不快。
同じ出来事でも、受け取る感情は人によって異なります。
見えているもの、聞こえている音、味や感触、匂いも同じです。

「もう少し」「もっと」といった言葉は、日常ではとてもよく使われる表現ですが、実はとても曖昧な言葉でもあります。

感覚だけに頼った表現は、受け取る側の経験や感性に委ねられるため、どうしても解釈の幅が広がってしまいます。

その曖昧さをできるだけ減らすために、私は指導の中で、具体的で、できるだけズレの少ない伝え方を心がけています。

例えば「少し右上がりに書きましょう」と言ったとき、その「右上がり」の角度は人それぞれ違います。
そこで「約6度くらい右上がりに書きましょう」と伝えることで、イメージのズレを小さくすることができます。

もちろん、「6度って???」と感じるのは自然なことです。
その場合は、時計を使って「時計の針でいうと、1分分くらいの角度」と説明したり、お手本や添削を通して、実際に見て、感じてもらいます。

「もっと太く(細く)書きましょう」
→「あと2mm太く(細く)書きましょう」

「偏の幅は狭く」
→「全体の3分の1くらい」
 「この漢字は、偏と旁が1:2の比率」

「字の形を意識して」
→「三角形(正方形・台形・ひし形・円など)を描くように」

言葉を具体的にすることで、受け取り方のズレは少しずつ減っていきます。
「伝わらない」「できない」という無用なストレスも減っていきます。

小学生の場合、まだ習っていない内容もありますが、そのときは、できるだけ噛み砕いて説明します。
いずれ学習するものですから、実体験に基づいて学ぶ方が良いと思っています。

こうした考え方は、算数(数学)的な感覚や表現力とも深くつながっています。

逆算する力、予測する力、問題を整理し、解決策を考える力。
それを言葉で相手に伝える力。

学習塾のように問題を解くわけではありませんが、書写を通して、そうした力が自然に身についていったら嬉しいと思っています。

書写は、字を書く練習であると同時に、物事をどう捉え、どう共有するかを学ぶ時間です。

感覚を大切にしながら、同時に、共通の物差しを持つ。
その両方があってこそ、学びは深まると考えています。